伊藤チーム「癌の転移メカニズムの解明と創薬への応用」

 乳癌の抗癌剤として一般に用いられているものは、抗エストロゲン剤です。これは、エストロゲン(E2)のエストロゲン受容体(ERα)への結合を阻害することで癌の増殖抑制を示します。一方で、私たちのグループは、エストロゲンが癌の転移を抑制する働きを持つことを明らかにしました。このことは、抗エストロゲン剤の臨床的な使用は乳癌の転移を促進してしまう可能性を示唆しています。私たちは、転移のメカニズムを調べることで、増殖も転移も阻害できるような創薬への応用を目指して研究を行っています。
 増殖  
 転移 
E2 / ERα
TGF-βシグナル
TGF-β=transforming growth factor - β (増殖抑制因子)

 癌細胞の「増殖→腫瘍形成→転移」といった悪性化のプロセスにおいて、TGF-βファミリーは、悪性化が進行した癌において浸潤や転移などをさらに悪化させることが知られています。

ito.jpg 私たちは、様々な核内受容体がリガンド依存的にTGF‐βシグナルを制御することを発見しました。代表的な核内受容体であるERαは、初期癌の増殖を促進する働きを持つことが知られていますが、一方で、後期の悪性化した癌ではTGF-βシグナルを抑制することで、癌転移を抑制することがわかりました。癌の転移メカニズムを解明し、ERαなどの核内受容体やそれらのリガンドを効率的に応用することで癌の増殖を抑え、さらに浸潤や転移を抑制することができると考えられます。

1.TGF-βシグナル伝達調節を介したVDRによる大腸癌転移機構の解析
 核内受容体はリガンド依存的に、TGF-βシグナルを伝達するタンパク質(Smad)を分解することでTGF-βシグナルを抑制します。核内受容体は48種類存在し、それぞれに特徴があります。現在私たちは、TGF-βシグナルの抑制力が高く、リガンドが豊富にあるVDR(ビタミンD受容体)を用いて大腸癌の肝転移の研究を行っています。これまで知られていた核内受容体の機能とTGF-βシグナルの抑制機能を分離できるようなリガンドをみつけること、また、核内レセプターがSmadを分解するときの分子メカニズムを調べることで、新しいタイプの治療薬の開発に貢献することが期待できるので、癌細胞の転移現象を分子レベルで明らかにするための研究を進めています。

2. 乳癌細胞の転移に対するフルベストラントの効果
 ERαは、Smadを分解することでTGF-βシグナルを抑制して、乳癌の転移を抑制しています。抗エストロゲン剤であるフルベストラントは、ERαを即座に分解させる働きを持つので、乳癌に対する治療薬として臨床的に使用されていますが、ERαによるTGF-βシグナルの抑制が解除されることによって、転移を亢進してしまう危険性が考えられます。現在、この可能性について検討しています。

3.新規抗エストロゲン剤による転移抑制メカニズムの解析
 一般的に、癌は初期と後期で性質が異なり、初期では良性な癌が後期には転移能をもつ悪性の癌へと変化します。この変化に関わる様々な因子の発現をコントロールしているのがERαであることが明らかになってきています。このプロジェクトでは、エストロゲンのようにERαの働きを調節する化合物を探索し、乳癌の増殖と転移の両方を抑制できる抗癌剤の開発を目的として研究を行っています。

4.癌細胞悪性化の分子機序の解明

 癌細胞がどのように転移能を獲得し、実際に転移するのか、その分子メカニズムを明らかにするために研究を進めています。


 さらに詳しい研究内容については、こちらからお問い合わせください。

←メーラーが立ち上がります。