神代チーム「ユビキチンリガーゼによる生体制御機構の解明」

 細胞は常にタンパク質の合成と分解のバランスによって維持されています。細胞内タンパク質の量はその細胞が置かれている環境に応答するため、厳密に制御される必要があります。そのようなタンパク質分解機構の一つにユビキチン‐プロテアソーム系があります。この反応系は、低分子タンパク質であるユビキチンが標的タンパク質に付加され、それを目印に標的タンパク質がプロテアソームによって分解されることによって機能します。この経路において、ユビキチンリガーゼが標的タンパク質にユビキチンを結合させる基質特異性を担っています。生体内には多様なユビキチンリガーゼが存在し、状況に応じて標的タンパク質量を制御し、正常な生体応答を可能にしています。このようなユビキチンリガーゼの異常は癌や神経疾患を始めとする重篤な疾患に繋がることが報告され、そのメカニズムの解明が進められています。私たちは、二種類のユビキチンリガーゼ、「CHIP」と「NRDF」に着目し、癌の悪性化や発生・分化における重要性を見出しました。現在はそのさらなる理解と応用の可能性について解析を進めています。
kajiro.figure.1.jpgユビキチンリガーゼCHIPによる乳癌悪性化抑制メカニズムの解析
 当研究室では乳癌の悪化因子であるERα/βをユビキチン化するユビキチンリガーゼとしてCHIP (Carboxyl terminus of Hsc70-Interacting Protein)を同定し、その意義についての解析を進めて来ました。そこで我々はCHIPと乳癌の関係に着目し、その解析を行いました。その結果、乳癌患者の癌組織においてCHIPのmRNA量とタンパク質量が減少していることを発見しました。さらに、個体レベル、細胞レベルで様々な検証をを行ったところ、CHIPが乳癌の腫瘍の形成や転移を強力に抑制する因子であることが分かりました。さらに、その分子機構を解析したところ、CHIPの新規ユビキチン化標的因子として、乳癌の増悪因子であるSRC-3を同定しました。CHIPはSRC-3をユビキチン化し、分解を促進することで乳癌の転移を抑制していることが明らかとなりました。一方でCHIPの持つ機能にはSRC-3のユビキチン化だけでは説明が難しい現象も確認されました。このことから、CHIPは、SRC-3以外にも複数のタンパク質をユビキチン化することによって、転移をはじめとする乳癌の悪性形質を多面的に抑制する上流因子であることが考えられました。現在は、CHIP遺伝子の転写、mRNAの安定化や翻訳効率、タンパク質レベルでのユビキチン化活性の制御などのCHIP自身の制御についての機構を中心として研究を進めています。その中から最も効果的な制御方法を確立することで、乳癌の悪性化を抑制する有効な治療法の開発に貢献していきたいと考えています。
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新規ユビキチンリガーゼNRDFの解析
 柳澤研究室ではエストロゲン存在下でERαと結合し、転写の活性化に寄与する新規ユビキチンリガーゼを同定し、NRDF (Nuclear Receptor Degradation regulating Factor) と名付けました。このNRDFのユビキチンリガーゼ活性を欠失させたNRDF mutマウスを作製したところ、受精後8.5日で胚性致死となること、NRDF mutのES細胞 (NRDFmut ES cells)が野生型と比較して増殖に遅延が見られることから、NRDFはERα依存性の転写だけでなく細胞周期や発生分化の制御にも深く関わっていることが示唆されました。さらに、フローサイトメトリーを用いた解析からNRDFはG2-M期の進行に関わっている可能性が明らかとなってきました。今後は、その詳細な分子メカニズムの解明を通してNRDFの細胞と個体に対する重要性を明らかにしていきたいと考えています。

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